TCFDとは

このまま継続的に温室効果ガス(GHG)が排出されると、地球のさらなる温暖化をひきおこし、現在の経済活動が成り立たなくなり、世界の経済が困窮し、破綻するといった事態も免れません。金融セクター(金融機関、投資家)の立場から、企業は共通のスキームに従って、気候変動に対するリスクや機会を分析し、それらを開示すべきという働きかけがTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)、 気候関連財務情報開示タスクフォースです。 

2015年G20の各国財務大臣、各国中央銀行総裁らが、FSB [Financial Stability Board 金融安定理事会:主要国・地域の中央銀行や金融監督当局、財務省、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、OECD(経済協力開発機構)等の代表が参加している]に対し、金融セクターが気候関連問題をどのように考慮できるか見直すように要請したのをきかっけに、FSBにより企業等の気候関連のリスクと機会を評価し、その情報を特定するためのタスクフォースとして創立されました。

2023年7月、IFRS財団(国際財務報告基準IFRSの策定を担う機関)は、財団内のISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、2024年よりTCFDの気候変動情報開示の進捗状況をモニタリングする役割を引き継ぐことを発表しました。また、2023年10月、TCFDも解散と気候変動情報開示の進捗状況のモニタリングとFSBへの報告の責任をISSBが引き受けたことを発表しました。この詳細については文末で触れることにし、以下、TCFDについて説明します。

「TCFD提言」とは何を開示するのか

タスクフォースの研究成果として、2017年にTCFDは、企業や政府、自治体などの組織に対し、気候変動リスク、及び機会に関する情報開示のフレームワークを提示し、推奨した「TCFDによる提言」の最終報告書を発表しました。

内容は、企業は気候変動をマテリアル(重要)な課題ととらえ、経営に統合し、シナリオ分析を行い、運営方針の中核要素として気候変動に関する「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つの項目について、財務情報の一部として公表(報告)することを推奨しているものです。財務情報の一部ということは、定期的に更新するということも意味します。

また、GHG排出は地球温暖化の主要因なので、どの組織も指標はGHGプロトコルに沿って、排出量計算をし、少なくともスコープ1とスコープ2、リスクとして関連があればスコープ3も開示することが推奨されています。

出典: 脱炭素経営の手順とは? - トピックス - 脱炭素ポータル|環境省 (env.go.jp)

また、GHG排出は地球温暖化の主要因なので、どの組織も指標はGHGプロトコルに沿って、排出量計算をし、少なくともスコープ1とスコープ2、リスクとして関連があればスコープ3も開示することが推奨されています。

参考:TCFD提言の日本語版(TCFD発行) Final Report (bbhub.io)

「TCFDに賛同する」とは

そして、TCFDは「TCFDによる提言」(以下、TCFD提言)に沿って開示することに賛同する企業や政府機関、団体を募り始めました。賛同の宣言をすることはTCFDのサポーターになる、という表現がされています。

TCFDの創立側の組織、FSBの日本のメンバーは財務省、日本銀行、金融庁ですが、そのうち、日本銀行と金融庁がTCFD提言に賛同しており、当初1桁台だった日本の賛同機関数は、2023年8月25日現在で1,436となり、世界4,768機関の30%を占め、2位のイギリス(522機関)の2.8倍と、圧倒的な差で世界1位となっています。

TCFDのISSBへの移行に伴い、現在は賛同の募集は行われていません。TCFDの賛同者を募るウェブページは閉鎖され、サポーターリストは削除されています(2024年10月現在)

参考:TCFDとは | TCFDコンソーシアム (tcfd-consortium.jp)

TCFDの急速な広がり

企業や地方自治体などに、GHG排出量や削減策を公表することを促す国際機関CDPの気候変動の質問書に、TCFD提言に沿った質問が登場したのが2018年。日本の企業間でもTCFD提言への関心が高まりました。そして同年の12月に日本国内でTCFDのコンソーシアムが設立されました。その頃から日本企業の賛同数が劇的に増え始めました。また、環境省も各企業が経営戦略にTCFD提言を取り込めるように積極的な支援も開始し、2020年にはTCFD提言の中で理解が難しいと言われているシナリオ分析についての実践ガイドも発行されました。

参考:「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド~」の改訂について | 報道発表資料 | 環境省 (env.go.jp)

2021年にはコーポレートガバナンス・コードが改訂され、「プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである」(補充原則3-1-3)という一文が足されました。

このことによって、企業は毎年、TCFD提言等に沿った開示をし、それが出来ない場合は、毎年のコーポレートガバナンス報告書にその理由を書かなければいけないこととなりました。この改訂は、2022年4月に再編された東証市場のプレミアム上場企業に対して、既に適用されています。日本のTCFDコンソーシアムが公表している資料によると、この頃から急激にTCFD提言に賛同する企業の数が増えています。

実際に多くの大企業が、統合報告書やサステナビリティ・レポートなどで、TCFD提言に沿った報告をするようになってきており、それらは各社のウェブサイトなどで簡単に確認できます。

参考:コーポレートガバナンス・コード 改訂前からの変更点 株式会社東京証券取引所

nlsgeu000005lnee.pdf (jpx.co.jp)

現在、TCFD等に沿った開示義務はプレミアム市場のコーポレートガバナンス・コードに適用されていますが、金融庁では今後もっと広く、有価証券報告書を開示している企業全てまでに広げることを検討しているようです。

参考:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について:金融庁 (fsa.go.jp)

サステナビリティ情報の開示に関する情報 (fsa.go.jp)

中小企業にも活かせるTCFD

TCFDという世界的なイニシアチブは、日本の環境省、経済産業省、金融庁のカーボンニュートラル施策の中でフレームワークとして活用され、プライム上場企業を中心に広がっています。

それではTCFDはプレミアム上場の大企業や有価証券報告書の発行義務のある企業のみに関係するものでしょうか? 大企業が大きく脱炭素経営へ舵取りをする今、中小企業の経営者にとっても、気候変動が経営にもたらすリスクや機会について考えることの重要度は増しています。TCFDの気候変動のリスクや機会を洗い出すフレームワークは中小企業にも活用できます。TCFDや日本の環境省は日本語での解説も発行していますので以下、リンクをご紹介します。

参考:環境省のTCFD情報のまとめページ(随時更新) 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD) | 総合環境政策 | 環境省 (env.go.jp)

参考:経済産業省のTCFDのまとめページ(随時更新) 気候変動に関連した情報開示の動向(TCFD)(METI/経済産業省)

TCFDはISSBに引き継がれ、IFR S1 IFR S2へ

2023年7月、IFRS財団(国際財務報告基準IFRSの策定を担う機関)は、財団内の組織ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、2024年1月より企業の気候関連の開示の進捗状況のモニタリングの責任をTCFDより引き継ぐことを発表しました。

この発表に先立って、ISSBは創立の2021年より検討してきた最初の開示基準となる「IFRS S1号 サステナビリティ関連財務情報の開示に関する一般要件」と「IFRS S2号 気候関連開示」を発表しました。開示のためのガイダンスや指標の理論の根拠を示す付随資料も同時に発行されました。

IFRS S2ではTCFDのフレームワークがもっと深まり、たとえばTCFDでは排出量の開示はScope1とScope2とし、Scope3は影響の高いものだけでよい、ということでしたが、Scope3全体の開示は必須となりました。また、バリューチェーン全体のどこに、どのようにリスクと機会と対応しているのか、など詳しい情報の公開が求められるようになるなど、変化は多数見かけられます。またIFRS S1では生物多様性に関するTNFDに準じた公開も求められています。

一方、TCFDも2023年10月、2022年版の最終ステータスレポートの発行と共に、TCFDの解散と、気候変動情報開示の進捗状況のモニタリング及びFSBへの報告の責任をISSBが引き受けたことを発表しました。また、同時にTCFDを創立したFSBも同様の発表をしました。

IFRS S1号及びIFRS S2号は2024年1月から有効になりました。これまでCDPはTCFD提言の内容をいち早く質問書に盛り込んでTCFD提言を推進してきたので、今後、CDPの質問書にも変化があるかと予想されます。

また、IFRSはTCFDを引き継ぐ前の2022年8月に、アメリカの業界別サステナビリティ開示基準SASBからも同様にSASB基準の管理責任を引き継いでおり、SASB基準の更新と推進をしています。SASBに準拠した情報開示はアメリカの投資機関やESG評価機関には重要で、日本の企業にもSASBに準拠した開示が広がっているので、今後の動向が見逃せません。

参考:IFRSのTCFDに関する発表  IFRS - IFRS Foundation welcomes culmination of TCFD work and transfer of TCFD monitoring responsibilities to ISSB from 2024

参考:ISSB  IFRS - International Sustainability Standards Board

参考:IFRS/ISSB発行 ウェブキャスト「IFRS S1号」の日本語訳資料(2023年11月)  PowerPoint Presentation (ifrs.org)

参考:IFRS/ISSB発行 ウェブキャスト「IFRS S2号」の日本語訳資料(2023年11月)   PowerPoint Presentation (ifrs.org)

参考:IFRSスタンダード 日本語訳資料まとめページ   IFRS - Sustainability pdf collection

参考:TCFDニュースリリース 最終ステータスレポートの発行と解散を知らせる内容(2023年10月12日)  TCFD Publishes Final Report, Identifies Further Work Needed | Task Force on Climate-Related Financial Disclosures (fsb-tcfd.org)

参考:FSBのニュースリリース(2023年10月12日)  FSB publishes annual progress report on climate-related disclosures - Financial Stability Board