2022年以降の日本政府の脱炭素政策 キーワードはGX

 前章では2022年2月に経済産業省が「GXリーグ基本構想」を発表したところまで説明しました。この「GXリーグ基本構想」の中でGX(グリーントランスフォーメーション)という言葉は以下のように定義されています。

『2 0 5 0 年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取組を経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて、経済社会システム全体の変革がGXです。』

引用:経済産業省 GXリーグ基本構想(概要資料) GX0304v4 (meti.go.jp)

そして、この頃から現在に至るまでGXをキーワードに具体的な政策が制定されて、カーボンニュートラル政策にドライブがかかっています。

2020年のカーボンニュートラル宣言とその直後に発表されたグリーン成長戦略で、カーボンニュートラルの実現を技術的、経済的な成長とするとしたが、それらが具体的な政策に落とされ、実践のフェーズに進でいます。時系列に沿って追ってみましょう。

2022年7月 GX実行会議の設置

カーボンニュートラルを実現するためには、化石エネルギーに依存した社会をクリーンエネルギー中心のへ転換することでエネルギーの安定供給の再構築をし、日本の経済・社会、産業構造を脱炭素なものへ、経済社会システム全体の変革、GX(グリーントランスフォーメーション)を推進しなければならないと、2022年7月にGX実行会議が設置され、「GX実現に向けた基本方針」の議論が始まりました。

内閣総理大臣を議長、副議長にGX実行推進担当大臣(経済産業省)、内閣官房長官、他に外務大臣、財務大臣、環境大臣、関連分野の有識者で構成されています。この会議は、次項の「GX実現に向けた基本方針」策定に続き、関連法を次々と策定し、現在も存続しています。

参考:GX実行会議 GX実行会議|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)

2023年2月 GX実行会議「GX実現に向けた基本方針」今後10年間のロードマップ

2020年政府のカーボンニュートラル宣言直後に発表された「グリーン成長戦略」では、政府が力を入れていく分野は整理されましたが、その推進力となる資金をどのように生み出していくかという政策は示しきれているとはいえませんでした。そこで、GX実行会議の議論により、今後10年間を見据えたロードマップとして「GX実現に向けた基本方針」が策定されました。施策はおおまかに、エネルギー関連施策と金融政策に大別でき、特に金融政策では、今後10年間で150兆円超の官民GX投資を実現するために、「GX経済移行債」やカーボンプライシングなどの施策を進めていく、としています。

また、「GX実現に向けた基本方針」の参考資料には、投資の中心となる22分野(水素・アンモニア、蓄電池産業、鉄鋼業、自動車産業、資源循環産業など)が取り上げられていて、それぞれの分野の「目標・戦略」「GX投資」「規制・制度」「国際略」が、今後の道行きとして示されています。

参考:GX実現に向けた基本方針 kihon.pdf (cas.go.jp)

参考:GX実現に向けた基本方針 参考資料  20230210002_3.pdf (meti.go.jp)

2023年2月「GX推進法」閣議決定(5月成立)

「GX実現に向けた基本方針」と同時に、「GX推進法(正式名称;脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案)」が閣議決定されました。この法律は、「GX実現に向けた基本方針」の中で挙げられていた、(1)「GX推進戦略」の策定・実行、(2)「GX経済移行債」の発行、(3)成長志向型カーボンプライシングの導入、(4)GX推進機構の設立、(5)進捗評価と必要な見直しといった施策を法定化するための法律です。「GX実現に向けた基本方針」の中で、今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要とされましたが、その原資をどう創り出すか、具体的な政策が示されたわけです。GX経済移行債や、カーボンプライシングなど、これまでにない新しい政策が打ち出されました。

以下、抜粋して説明いたします。

(1)  「GX推進戦略」の策定は同年7月に行われました。こちらで説明します。

(2)  「GX経済移行債」はGX推進戦略の実現に向けた先行投資を支援するための国債です。2023年度から10年間で20兆円規模の発行を目指しています。

「GX経済移行債」は2028年度から徴収を開始する予定の「化石燃料賦課金」や2033年度から徴収する予定の「特定事業者負担金」により、2050年までには償還されることと定められました。

「GX経済移行債」は銘柄名を「クライメート・トランジション利付国庫債券」といい、償還期間が10年と5年のものがあります。第1回の募集(入札)は2024年2月に行われました。10年と5年、それぞれ8千億円づつ、初年度目標の1.6兆円分が発行されました。

(3)  成長志向型カーボンプライシング(炭素排出に値付けをすること)として、炭素に対する賦課金「化石燃料賦課金」と排出量取引制度を導入することを規定しています。

「化石燃料賦課金」は化石燃料の輸入事業者に対して、輸入等する化石燃料に由来するCO2の量に応じて化石燃料賦課金を徴収することを2028年度から開始するとしています。また、排出量取引制度では、発電事業者に対して、一部有償でCO2排出枠(量)を入札式で割り当て、その量に応じた「特定事業者負担金」を徴収することを2033年度から開始することとしています。

(4)  (3)の「化石燃料賦課金」や「特定事業者負担金」の一元的な執行や、民間企業のGX投資の支援を行う主体として「GX推進機構」を設立することが定められました。

参考:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案【GX推進法】の概要

20230210004-1.pdf (meti.go.jp)

財務省 クライメート・トランジション利付国債 クライメート・トランジション利付国債 : 財務省 (mof.go.jp)

 

2023年2月『GX脱炭素電源法』閣議決定(6月成立)

「GX実現に向けた基本方針」では、エネルギーの供給源として脱炭素電源利用と電気の安定供給の促進をうたっています。そのためには従来の法律を変えなければいけない必要性から、「GX脱炭素電源法(正式名称:脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法当の一部を改正する法律)」が制定されました。

地域と共生した再エネの最大限の導入促進、安全確保を大前提とした原子力の活用に向けて関連する法律を改正するのが目的としています。

具体的には、再生可能エネルギーの発電設備や送電設備などの整備を促すための法改正、初期の太陽光発電で使われたパネルが寿命を迎える時期でもあるので、その追加投資を促進するために新たな買取制度の設立などがあります。また、既存の原子力発電所の運転期間を延長できるようにするための法改正も含まれています。

これまでの法律では、原子力発電の運転期間は運転中止期間も含めて、原則40年、最長60年とされてきました。「GX脱炭素電源法」では、運転停止期間は運転期間としてカウントしなくてもよい、と改正されました。

原子力発電は再生可能エネルギーではないので、RE100のイニシアチブなどでは、除外されています。しかし、原子力発電の発電量あたりのCO2排出量は火力発電と比べると格段に低いとして、「GX実現に向けた基本方針」においても、原子力発電の量、割合共に増やしていくことを決めています。

2023年7月「GX推進戦略」閣議決定

こちらの「GX推進戦略(正式名称:脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」は、「GX実現に向けた基本方針」、「GX推進法」、「脱炭素電源法」の政策を実行するためのものとして、その策定を「GX推進法」にて定められたもので、内容は「GX実現に向けた基本方針」とほぼ同じです。

参考:脱炭素成長型経済構造移行推進戦略  20230728002-1.pdf (meti.go.jp)