この章では、日本政府が2020年にカーボンニュートラル宣言をする前までの気候変動対策関連の政策と、カーボンニュートラル宣言をした後、GX関連の政策の準備が始まる2022年頃までの政策を追ってみたいと思います。

現在、たくさんの施策とそれに紐づく補助金制度が、次々と策定されていますが、その施策の源を知っておくことで情報が追い易くなることと思います。

カーボンニュートラル宣言前の政策

2020年に政府がカーボンニュートラル宣言をする前にも、日本にはGHG排出量削減に関連する施策が複数ありました。時間を遡って、所管省庁別にまとめてみました。

経産省の「省エネ法」や「エネルギー基本計画」など

古くは1970年代のオイルショック(石油の輸入価格の急高騰)の時に、経済産業省(2000年以前は通商産業省)では工場や輸送事業者などに、なるべく化石燃料、熱、電気を使わないようにしようと化石燃料の使用の合理化を目的とした「省エネ法」(現在の正式名称:エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)が1979年に制定されました。所管は経済産業省です。また、経済産業省は日本国内の発電計画も担うので、2002年に「エネルギー政策基本法」を制定し、少なくとも3年おきに「エネルギー基本計画」を策定することを決めました。その計画の中では再生可能エネルギーの割合などの方針も示しています。

環境省や地球温暖化対策推進本部の「温対法」、「温暖化対策計画」など 

その後、気候変動が世界の共通の問題と認識されるようになり、国連でも1994年に国連気候変動枠組条約UNFCCCが発効され、日本も批准国になりました。そして3年目のCOP3(1997年)は日本の京都で開催され、「京都議定書」が採択されました(日本は2002年締結)。2008年から2012年の期間中に先進国それぞれに割り振られたGHGの削減目標を達成するというもので日本は1990年比6%削減するという目標が割り振られました。

「京都議定書」が採択されたその年に、日本政府では、本部長に内閣総理大臣、副部長に内閣官房長官、環境大臣、経済産業大臣、その他すべての国務大臣を本部員とする「地球温暖化対策推進本部」を設置して、UNFCCCなど国際レベル推進される温暖化対策の動きを国内の政策の枠組みにどのように落とし込むか検討が始まりました。

そして翌年の1998年に環境省を所管とする「温対法」または「地球温暖化対策推進法」とよばれる「地球温暖化対策の推進に関する法律」(以降「温対法」と表する)が制定されました。温室効果ガスの範囲を国際基準に合わせてCO2、CH4(メタン)、N2O(一酸化二窒素)、HFC(ハイドロフルオロカーボン類)、PFC(パーフルオロカーボン類)、SF6(六フッ化硫黄)、NF3(三フッ化窒素 2013年改正時に追加)と定義し、事業者に対してそれぞれのガスの排出量の把握と公表を求めることなどが定められました。また、この法律によって地球温暖化対策推進本部が法定化されました。

やがてUNFCCCの目標が「京都議定書」から「パリ協定」に移行し、「パリ協定」が採択されました(2015年)。その直後に地球温暖化対策推進本部は「パリ協定を踏まえた地球温暖化対策の取組方針について」を発表し、日本の「パリ協定」締結を目指します(2016年締結)。その方針にはパリ協定に基づいた2030年中期目標に向けた「温暖化対策計画」の策定が定められていて、「温暖化対策計画」は、2016年5月に発表されました

参考資料:

地球温暖化対策推進法の成立・改正の経緯 | 地球環境・国際環境協力 | 環境省 (env.go.jp)

環境省:地球温暖化対策推進法の成立・改正の経緯のページ

paris_torikumi.pdf (kantei.go.jp)

首相官邸ページ パリ協定を踏まえた地球温暖化対策の取組方針について 2015年12月

honbun.pdf (kantei.go.jp)

首相官邸ページ 地球温暖化対策推進本部 地球温暖化対策計画 2016年5月

 

また環境省は、2018年には「気候変動適応法」を策定し、農業や防災等の各分野の適応計画の作成、気候変動影響評価を5年ごとに行うことなどを定めました。

気候変動適応法 | 環境省 (env.go.jp)

環境省 気候変動適応法のページ

 

内閣府の「科学技術基本計画」

他には、内閣府は内閣総理大臣、関連国務大臣及び有識者で成る「総合科学技術会議」(現「総合科学技術・イノベーション会議」)を設置し、1995年から5年ごとに「科学技術基本計画」(現「科学技術イノベーション計画」)を策定しています。その計画には教育機関や研究機関での地球環境問題や特にエネルギー・資源問題などといった分野を含む研究方針や政策が織り込まれています。

参考資料:

第2期科学技術基本計画 本文 - 科学技術政策 - 内閣府 (cao.go.jp)

日本政府のカーボンニュートラル宣言

2018年に、「パリ協定」の目標を分析した「IPCC 1.5℃特別報告」 で「世界の気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以内に抑えるには、2050年にカーボンニュートラルにすることが必要」と発表されました。

その発表を受けて、急速に世界各国や企業にカーボンニュートラルの表明が広がり、2019年のCOP25の時点では121ヶ国がカーボンニュートラル目標を表明しました。そして日本政府も2020年10月にカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。

 

以下、カーボンニュートラル宣言後の政策を時系列に従って追ってみましょう

2020年12月、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」策定

カーボンニュートラル宣言から間もなく、2020年12月、経済産業省が中心となり関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました。温暖化への対応を制約やコストとする時代は終わり、国際的も、成長の機会と捉える時代と突入した、という政府の考え方により「成長戦略」と名付けられています。

「2050カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、カーボンニュートラルを達成する過程で産業政策、エネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要な技術分野を挙げ、それらの分野別に実行計画と目標が示されています。

また、それらの目標を目指す企業の前向きな挑戦を後押しする政策ツールも大まかに示されています。例えば、成長が期待される14の重要分野のイノベーションを後押しするために、10年間で2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」を作ると示されています。

参考:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 (METI/経済産業省)

2020年12月策定 2021年6月改訂

経済産業省 内閣府 金融庁 総務省 外務省 文部科学省 農林水産省 国土交通省 環境省

2021年3月、内閣府「第6期科学技術・イノベーション基本計画」策定

5年ごとに策定される「科学技術・イノベーション計画」が更新され、2021年から2025年をカバーする「第6期科学技術・イノベーション基本計画」が策定されました。それにはカーボンニュートラル技術に関連するイノベーションを推進するグリーン成長戦略などの方針も盛り込まれています。また、この5年計画は毎年見直され、「統合イノベーション戦略2021」、「統合イノベーション戦略2022」、「統合イノベーション戦略2023」というように、年次の実行計画に落とされたものが、毎年、策定されています。

参考:科学技術・イノベーション基本計画 (cao.go.jp)

第6期科学技術・イノベーション基本計画 本文 内閣府

第6期科学技術・イノベーション基本計画 - 科学技術政策 - 内閣府 (cao.go.jp)

政府が具体的な2030年度の数値目標を発表

2021年4月22日の地球温暖化対策推進本部及び気候サミットにおいて、我が国は、2050年カーボンニュートラルに向けて「2030年度において、GHG排出を2013年度を基準にして46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦する」と宣言しました。

令和3年4月22日 温室効果ガスの削減目標及び緊急事態宣言等についての会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

 

2021年6月、国・地方脱炭素実現会議「地域脱炭素ロードマップ」策定

前述の「2050カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」などの政策プログラムと連携しつつ、国と地方が協働してカーボンニュートラルを実現するための具体的な方策について話し合われました。そして2021年6月には「地域脱炭素ロードマップ」が策定されました。策定にあたっては「国・地方脱炭素実現会議」が設置され議論が行われました。この会議は議長が内閣官房長官、副議長に環境大臣と総務大臣、他に政府のメンバーは地方創生担当大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、地方自治体から1県知事、3市長、2町長で構成されています。

このロードマップには、地域資源を活かした脱炭素の取組は少子高齢化の課題を抱える地方の課題解決にもつながり、成長の機会になる、という考えのもと、それぞれの地域特性に応じた取り組みをするために「脱炭素先行地域」を2030年までに全国で少なくとも100か所に作りことなどが挙げられています。また、脱炭素先行地域だけでなく、全国でカーボンニュートラルにコミットする地方自治体を募り、意欲が高く、実現可能性が高い地域から全国に広げる「実行の脱炭素ドミノ」を起こすという戦略も示されています。

20210609chiikiroadmap.pdf (cas.go.jp)

地域脱炭素ロードマップ 国地方脱炭素実現会議 2021年6月9日

2021年10月、「温対法」と「パリ協定を踏まえた地球温暖化対策の取組方針について」に踏まえて環境省の「地球温暖化対策計画」が5年振りに改訂され、2021年から2030年までをカバーした計画となりました。それには同年4月に発表された2030年中期目標(2013年基準で46%削減、50%に挑戦)と、地域脱炭素ロードマップの施策などが盛り込まれています。

900440193.pdf (env.go.jp)

環境省 地球温暖化対策計画

 

2021年10月、経済産業省「第6次エネルギー計画」策定

経済産業省が所管するエネルギー計画がカーボンニュートラル宣言後、初めて更新され、「第6次エネルギー計画」が策定されました。2030年の電源比率などの目標が掲げられています。再エネは36~38%で、原子力は20~22%となっています。日本政府はカーボンニュートラルには原子力発電は欠かせないと考えていますが、東日本大震災後、原子力発電所の稼働率が低いままの状態が続いています。この計画では、省エネなどで総需要量を下げているので、原子力の比率は上がっています。

 

経済産業省 資源エネルギー庁 日本の新たな「エネルギー基本計画」

2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな「エネルギー基本計画」|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

 

参考:経済産業省 資源エネルギー庁 エネルギー基本計画について

エネルギー基本計画について|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

参考:経済産業省 第6次基本計画

20211022005-2.pdf (meti.go.jp)

 

2022年2月 経済産業省「GXリーグ基本構想」発表 GXとは?

経済産業省はGXリーグ基本構想を発表するにあたって、GX(グリーントランスフォーメーション)をこのように説明しています。

『2 0 5 0 年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取組を経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて、経済社会システム全体の変革がGXです。』

GXに積極的に取り組む「企業群」が、官・学・金でGXに向けた挑戦を行うプレイヤーと共に、一体として経済社会システム全体の変革のための議論と新たな市場の創造のための実践を行う場として「GXリーグ」を設立する構想が発表され、参加企業が募られました。

この時、話題になったのが、『GXリーグ』の設立目的のひとつが、企業間の排出量取引だったことです。日本では排出量取引のルール作りや実践がヨーロッパ諸国から大きく遅れていました。企業を評価する国際的なESG指標からみると、それは日本企業の弱点にもなっていました。また、日本政府にとっても、排出量取引はGXのための原資ともなるので、ルールの整備は必須でした。

「GXリーグ」は2022年度を準備期間とし、2023年4月から本格的な活動を開始しています。2024年8月現在、日本のGHG排出量の5割以上を占める企業が参画しています。

引用:経済産業省 GXリーグ基本構想(概要資料)

GX0304v4 (meti.go.jp)

参考:経済産業省 GXリーグ基本構想(本文)

GXリーグ基本構想 (METI/経済産業省)

 参考:GXリーグ公式WEBサイト

GXリーグ公式WEBサイト (gx-league.go.jp)

 

2022年度には、この「GXリーグ基本構想」発表に引き続き、7月にはGX実行会議が設置され、「GX実現に向けた基本方針」やその実行を推進する「GX推進法」など、GX関連の法案の議論が始まりした。カーボンニュートラル政策の本流がGXをキーワードに、いかにエネルギー政策をすすめるか、どのようにGXのための原資を創出するか、など具体的な施策へと移っていきます。フェーズが一段階進んだともいえます。GX関連の政策が次々と制定されていく2022年以降の政策の流れは次章に続けたいと思います。

また「省エネ法」(経済産業省)や「温対法」(環境省)もカーボンニュートラル宣言以降、改正されました。それも別章の「省エネ法と温対法の改正」へ続けたいと思います。